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魔法科高校の劣等生 ショートストーリー集

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魔法科高校の劣等生
兄との一日
その1

心地よい目覚め。
深雪はすっと目が覚めた。あたりはまだ暗い。だが深雪はベッドから降り立った。
目覚めはいつも楽しみだ。それは最愛の兄がいる世界と再び出会うことだから。
深雪はベッドを降りて急いで服を着替えた。今日はうれしい日曜日。いや兄達也と過ごせる毎日はすべてがうれしいのだけれど。
一緒に同じ高校に入れた。その奇跡の時間を兄達也と共有出来るのがうれしい。
そして今日は愛しい兄と外に買い物に出かける約束もしている。そんなうれしい一日が始まるのだ。
鏡の前に座り、いつもより念入りに髪をとかす。生まれながらに艶やかな髪。深雪が望めば兄はその髪に触れ撫でてくれる。自分でも自慢の髪なのだ。常に兄の前では最高の姿でいたいと思う。綺麗に櫛削り、髪留めで顔が隠れないようにとめて深雪は鏡の中の少女ににっこりと笑いかけた。
愛らしい乙女の顔立ちだ。
自分の顔が作りがいいと思ったことはないけれどでも兄が気に入ってくれているのがうれしい。
魔法科高校でも見知らぬ生徒によく声をかけられるのは深雪が新入生総代として挨拶をしたためではないだろう。
「…」
ふと数日前の出来事を思い起こし、深雪は瞳をわずかに揺らがせた。
「あの人たち…」
唇にその言葉がのると同時に不意にあたりの気温が下がりはじめる。自分のコントロールを失っていることに深雪は気づいたがそのこみ上げる怒りを抑えようという気持ちにはなれなかった。
どうしてあんなにも才能があって優しくてそれをひけらかすこともない兄が無体な扱いを受けなければならないのか。
ブルームだウィードだと言ってあからさまな差別が存在することを深雪は忌避せずにはいられない。
いや、本当のことを言えば兄が関わっていなければその二つの差別を意識することもなかった。
だが深雪の世界は兄達也を中心に回っているのだ。
兄はその言われなき差別をさえ受け入れ、さらには軽やかに受け流している。それは常人にはない精神力だということにどうして皆気づかないのか。
見る間に部屋の中が凍り付いていく。ふと顔をあげて鏡を見て、深雪はわずかに目を見開いた。
「……」
そこに映っていたのはまるで見知らぬ女の顔。愛する人が目の前で理不尽な扱いを受けていることに憤る恋を知った女の顔だった。
これではだめだと思う。
「お兄様…」
そうつぶやいて深雪は意図的に深く息を吸った。
大丈夫。すぐ側に兄がいる。同じ家の中に。他の誰に認められなくても深雪は兄の力を知っている。だから気持ちを落ち着けよう。
いつも深雪のことを心にかけている兄に心配だけはかけたくない。
深雪はいつも笑っていて、兄を想っている妹。兄のためにその言われなき差別に怒ったりすねたりする可愛い妹。
まだ今はそれだけでいい。それだけで。
いつかは。兄の心のすべてを手に入れたい。深雪にとっては兄妹の禁忌は存在しない。兄がすべてなのだから。
でも兄が同じ気持ちを深雪に持ってくれるまで待てる。必ず兄を振り向かせてみせる。
そう思いながら深雪は立ち上がったのだった。